「日本語で普段話してるから、試験も日本語で大丈夫!」
「仕事でも日本語使ってるし、読めるつもり。」
こう思って、運転免許の学科試験を日本語で受験して落ちる外国人は本当に多いです。
ここでは、なぜ彼らが日本語試験で合格できないのかを、
3つのポイントに分けて、モリモリ解説していきます。
途中に【練習問題】も入れておくので、自分のレベルチェックにも使ってください。
1.「日本語は話せる=日本語も読める」と思い込んでいる
話す日本語と、読む日本語は「別のスキル」
まず一番大事なこと。
日本語で話せることと、日本語の文章をスラスラ読めることは、まったく別の能力です。
日常会話で使う日本語はこんな感じです。
- 「止まって!」
- 「右に曲がってください。」
- 「危ないよ!」
短くて分かりやすく、相手も表情やジェスチャーで補ってくれます。
しかし、運転免許の学科試験の日本語はこうはいきません。
- 文が長い
- 条件が多い
- 専門用語が入る
- 敬体・文語調が混ざる
一気に難易度が上がります。
試験の日本語は「ルール+条件+例外」で長くなる
学科試験の文章は、
「いつ・どこで・どんな状況で・どうしなければならないか」を
1つの文の中に全部詰め込むことが多いです。
会話ならこう:
「子どもがいるから、スピード落としてね。」
「見えにくいカーブだよ。ゆっくり行って。」
試験の文章になると:
見通しの悪い交差点に進入するときは、いつでも停止できるように、徐行しなければならない。
パッと見ただけで、情報が多いですよね。
- 「見通しの悪い交差点に進入するとき」
- 「いつでも停止できるように」
- 「徐行しなければならない」
このように、日本語の長文を「かたまり」で理解する力が必要になります。
長文になると途端に読めなくなる典型パターン
例文1
横断歩道やその手前で徐行または一時停止をしている車両がある場合、その側を通過して前方に出るときは、歩行者に十分注意しなければならない。
よくある反応:
- 最初の「横断歩道やその手前で…」でもう頭がいっぱい
- 「その側を通過して前方に出るときは」の「その」が何を指すのか分からない
- 結局「歩行者に注意しなければならない」だけ拾って雰囲気で判断する
でもこれは本当はこういう意味です。
「横断歩道やその手前で徐行または一時停止している車がある。その横を通って前に出るときは、歩行者にしっかり気をつけなさいよ。」
・主語は?
・「その」は何?
・いつ注意するの?
こういう関係を頭の中で整理しながら読めないと、
**長文の日本語は一気に「ただの黒い文字のかたまり」**になります。
例文2(条件が二つ以上)
カーブの手前などで対向車線にはみ出すおそれがあるときは、速度を十分に落とし、必要があれば一時停止して安全を確認しなければならない。
ここでつまずくポイント:
- 「〜などで」で条件がふわっと広がる
- 「はみ出すおそれがあるときは」で状況を説明
- 「速度を十分に落とし」「必要があれば一時停止して」の二段階行動
- 最後の「安全を確認しなければならない」まで集中力が続かない
会話なら、
「カーブの手前で、はみ出しそうなときは、
ちゃんとスピード落として、場合によっては一旦止まって、安全確認してね。」
と分けて言えますが、試験問題では1文に全部まとめてくるので、
長い日本語を読むことに慣れていない外国人にはかなりキツいです。
【練習問題1】長文をどこまで理解できている?
次の文を読んで、意味をつかめるか試してみてください。
信号機のない横断歩道の近くでは、歩行者が渡ろうとしているときや、渡っているときには、その通行を妨げてはならない。
Q. この文が言っていることに一番近いのはどれ?
- 信号機のない横断歩道では、歩行者が渡ろうとしていても、そのまま進んでよい。
- 信号機のない横断歩道の近くでは、歩行者の通行を妨げてはいけない。
- 信号機のない横断歩道では、歩行者は渡ってはいけない。
- 信号機のない横断歩道では、車は必ず一時停止しなければならない。
正解:2
- 「渡ろうとしているとき」
- 「渡っているとき」
- 「通行を妨げてはならない」
これらをセットで理解できるかどうかがポイントです。
もし、読むのに時間がかかったり、「なんとなくかな?」と不安になるなら、
日本語長文の読解力はまだ試験レベルに達していない可能性があります。
2.1問あたり「26秒」の現実:読むスピードが足りない
多くの外国人が不合格になる、本当の理由がここです。
1問に使えるのは「たった26秒」
試験時間と問題数から計算すると、
1問に使える時間は約26秒と言われています。
この26秒の内訳は、おおよそこんな感じです。
- 問題文を読む:10〜15秒
- 内容を理解して判断する:5〜8秒
- マークシートに記入する:5〜8秒
つまり、
10〜15秒で問題文を読めない人は、その時点でかなり不利
になります。
「ゆっくり読めば分かる」は試験では通用しない
よくあるパターン:
- 「辞書を使えば読める」
- 「時間をかければ意味は分かる」
- 「漢字はなんとなくイメージできる」
残念ですが、試験ではこの考え方は通用しません。
- 1文読むのに30秒以上かかる
- 知らない漢字が出ると固まってしまう
- 最初から最後まで読まないと分からない
この状態だと、
- 半分くらいの問題で時間切れ
- 焦って適当にマークする
- 見直しする時間もない
という流れで、ケアレスミスが大量発生します。
【練習問題2】26秒チャレンジ(実戦感覚)
スマホのタイマーで26秒をセットしてから、
下の問題を解いてみてください。
問題
信号機のある交差点で、青信号で進行しているときでも、
歩行者や他の車両の動きに注意し、安全を確認しながら進行しなければならない。上の文章は正しいか。
- 正しい
- 誤り
正解:1. 正しい
ここでチェックしてほしいのは、
- 文を読むのに何秒かかったか?
- 「青だから大丈夫」ではなく、「それでも注意が必要」というニュアンスまで理解できたか?
- 選択肢を読んでマークするところまで、26秒で間に合ったか?
読むだけで20秒以上かかっているようだと、
本番ではほぼ確実に「時間が足りない」状態になります。
「10〜15秒で意味がつかめるか」が合格ライン
実際の試験では、
- 「今の問題、もう一回じっくり読みたい」と思っても時間がない
- 見直しをする余裕はほとんどない
- 終盤になるほど、焦りと疲れでミスが増える
というのが現実です。
だからこそ、
・1つの問題文を10〜15秒でざっくり理解できる
・重要なキーワード(〜してはならない、〜以外、必ず、など)をすぐにキャッチできる
ここまで日本語の読解スピードを上げておかないと、
知識はあっても点数が取れないという非常にもったいない結果になります。
3.「私は読める」という人ほど、実は読めていない
最後は、いちばんやっかいなポイントです。
自信満々な人ほど、読み間違いが多い
指導していると、こんな人がよくいます。
- 「日本語、もうだいぶ読めるんで。」
- 「仕事も日本語だから、テストも問題ないです。」
- 「会話は全部日本語ですから。」
ところが、実際に問題を解いてもらうと…
- 「〜してはならない」を読み飛ばして、逆の意味で覚えている
- 「〜以外は」を無視して、例外を見落とす
- 「必ず」「十分に」などの重要な副詞をスルーする
- 雰囲気で答えて、理由を聞くと説明できない
つまり、「読めているつもり」であって、本当は細かいところまで理解できていないのです。
なぜ自分の読解力を誤解してしまうのか?
理由1:日常会話は「なんとなく」で通じてしまうから
- 少し間違えても、相手が推測してくれる
- 大事な部分だけ通じれば、会話は成立してしまう
- 文法があいまいでも、現場の流れでカバーできる
この「なんとなくコミュニケーション」に慣れていると、
「正確に読む」トレーニングが不足します。
理由2:漢字や単語を「見たことがある=分かる」と思ってしまうから
- 「徐行」「一時停止」「通行」など、よく見る言葉
- なんとなくイメージはできる
- でも、文章の中でどうつながっているかは理解していない
結果として、
単語は知っているのに、文章としての意味がズレる
という状態になります。
理由3:試験特有の言い回しに慣れていないから
- 「〜しなければならない」
- 「〜してはならない」
- 「〜場合は、〜。」
- 「〜ときには、〜。」
こういった日本語らしい論理構造の文を読む経験が少ないと、
試験文を読むときに、一気に負担がかかります。
【練習問題3】「自信家チェッカー」問題
次の文章を読んで、正しいかどうか答えてみてください。
問題
自転車が歩道を通行しているときは、歩行者の通行を妨げることがあってもよいが、ベルを鳴らして注意をうながさなければならない。上の文章は正しいか。
- 正しい
- 誤り
正解:2. 誤り
本当は、
歩行者の通行を妨げてはならない
ので、「妨げてもよい」という部分が間違いです。
ここで見てほしいのは、
- 何となく「ベルを鳴らす」「注意をうながす」だけに目が行っていないか?
- 「妨げることがあってもよい」という危険な表現をちゃんとチェックできたか?
- 自分の言葉で「なぜ誤りなのか」を説明できるか?
「なんとなく、危なそうだから誤り」と感覚で答えていると、
似たような問題で簡単にひっかかってしまいます。
自分の「本当の」読解力を確認する3つのポイント
ポイント1:時間
- 1問の文章+選択肢を読んで判断するのに、26秒以内で終わるか?
- 特に、文章を読むだけで20秒以上かかっていないか?
ポイント2:正確さ
- 「〜してはならない」「〜以外」「必ず」「十分に」などの
微妙なニュアンスの違いをきちんと区別できているか? - 逆の意味に読み間違えていないか?
ポイント3:説明できるかどうか
- 「なぜその答えを選んだのか?」を、
自分の日本語で説明できるか? - 「なんとなく」「雰囲気で」は要注意サインです。
まとめ:日本語試験で落ちるのは「知識不足」だけではない
ここまでの内容をまとめると、
外国人が日本語で運転免許の学科試験に落ちる理由は、主にこの3つです。
- 「話せる=読める」という勘違い
- 長文になると一気に読めなくなる
- 条件や例外がついた文章に弱い
- 1問26秒という時間に見合う読解スピードがない
- 10〜15秒でざっくり意味がつかめない
- 「ゆっくり読めば分かる」では本番に間に合わない
- 自分の読解力を正しく把握できていない
- 「読めるつもり」で、細かいミスを連発する
- 「なんとなく」で答えてしまうクセがある
日本語で受験すること自体は悪くありません。
むしろ、日本で生活するうえでは大きなプラスです。
しかし、
「話せるから大丈夫」ではなく、
「長文を10〜15秒で読んで正確に理解できるか」
ここを基準に、自分のレベルを冷静にチェックすることが、
合格への第一歩になります。
今の自分の実力がどのあたりなのか、
このページの【練習問題】を使って、ぜひ現実をはっきりさせてみてください。
