「もう何年も運転してるから、ルールは分かってる」
「母国で免許持ってるから、日本の試験も大丈夫でしょ」
こう思って、日本で運転免許の学科試験を受けて、あっさり不合格になる外国人は本当にたくさんいます。
ここでは、なぜ彼らが学科試験に合格できないのかを、
3つのポイントに分けてモリモリ解説していきます。
途中に【練習問題】も入れてあるので、
自分や生徒さんの「本当の理解度チェック」にも使ってください。
1.「運転できる=ルールも知っている」と思っている
運転の「感覚」と、法律としての「道路交通法」は別物
まず一番の勘違いがこれです。
「運転できること」と「道路交通法を理解していること」は、まったく別の話。
多くの外国人は、母国で何年も運転しているので、
こう考えがちです。
- 「事故も起こしてないし、オレ運転うまいよ」
- 「会社にも毎日車で行ってるから問題ない」
- 「家族を乗せて運転してたから、安全運転のはず」
しかし、日本の学科試験で聞かれるのは、
- あなたの“なんとなく安全な運転”
ではなく - “日本の道路交通法に基づいた運転”
です。
「なんとなく運転」と「法律ベースの運転」の違い
母国での運転は、実はこんな感じになりがちです。
- 周りの車の流れに合わせて運転している
- みんながやっているから、同じようにしている
- 警察に止められなければ、それでOKだと思っている
しかし、日本の試験で問われるのは、
- 「この状況では徐行か?一時停止か?」
- 「優先されるのは歩行者か?車か?」
- 「例外的に駐停車してもよい場所はどこか?」
といった “細かいルールの違いと例外” です。
感覚で運転しているだけの人は、
自分の運転スタイルと法律に差があることに気づいていません。
例:感覚では「OK」でも、道路交通法では「アウト」
例文1
「夜で車も少ないし、少しスピードを出してもいいだろう。」
感覚的にはよくある発想ですが、試験問題ではこう問われます。
夜間であって、他の交通が少ないときは、制限速度を超えて走行してもよい。
これは当然、
- 誤り
です。
制限速度は「周りに車がいるかどうか」とは関係ないからです。
例文2
「前の車がゆっくりだから、ちょっとだけセンターラインをはみ出して追い越してもいいでしょ。」
試験ではこんな感じで出てきます。
前の車が遅いときは、対向車が来ないことを確かめれば、センターラインをこえて追い越してもよい。
これも、
- 誤り
です。
センターラインの種類(黄色実線/白破線)、標識、場所(カーブ・交差点付近など)によって、
「追い越し禁止」の条件が細かく決まっているからですね。
「自分の感覚では安全だった」
という言い訳は、道路交通法には一切通用しません。
【練習問題1】感覚運転か、道路交通法か?
問題
自分の前を走っている車との間が十分にあいていて、後ろからくる車もないときは、制限速度を少し超えて走行してもよい。
- 正しい
- 誤り
正解:2. 誤り
「車がいないからちょっとぐらい…」というのは、
完全に“感覚運転”の発想です。
「オレは事故を起こしていない=ルールを守れている」
ではなく、
「道路交通法を知っているかどうか」
が問われている、ということをまずハッキリさせる必要があります。
2.1問あたり「26秒」の現実:読んで考える時間が足りない
次のポイントは、時間との戦いです。
1問に使えるのは「約26秒」
試験時間と問題数から逆算すると、
1問あたりに使える時間は約26秒になります。
この26秒を分解すると、だいたいこうです。
- 問題文を読む:10〜15秒
- 内容を理解して正誤を判断:5〜8秒
- マークシートに記入:5〜8秒
合計:約26秒。
つまり、
10〜15秒で問題文を読めない人は、その時点でかなり苦しい
ということです。
「ゆっくり考えれば分かる」は試験では通用しない
よくいるのが、このタイプです。
- 「時間をかければちゃんと理解できる」
- 「問題集なら落ち着いて読めば解ける」
- 「本番は集中するから大丈夫」
しかし、本番では…
- 1文読むのに30秒以上かかってしまう
- わからない単語や表現が出ると固まる
- 最後まで読み切る前に時間が気になり出す
結果として、
- 半分くらいの問題で時間切れ
- 焦りながらテキトーにマーク
- 見直しの時間もほぼゼロ
という、典型的な「不合格コース」に入ります。
【練習問題2】26秒チャレンジ
スマホのタイマーで26秒をセットしてから、
下の問題を解いてみてください。
問題
雨の日などで、前がよく見えないときは、速度を控えめにして走行し、必要に応じて前照灯をつけるなどして、安全の確認に努めなければならない。上の文章は正しいか。
- 正しい
- 誤り
正解:1. 正しい
チェックしてほしいポイント:
- 問題文を読むのに何秒かかったか?
- 「速度を控えめにする」「前照灯をつける」「安全の確認に努める」
この3つの要素をまとめてイメージできたか? - 読む+理解する+マークするまで、26秒で終わったか?
読むだけで20秒以上かかっている人は、
本番ではほぼ確実に時間が足りません。
10〜15秒で「ざっくり意味をつかめるか」が分かれ目
試験中は、次のような余裕はありません。
- 「ちょっとこの文、もう一回最初から読み直そう」
- 「じっくり考えたいから、後で戻ってこよう」
現実は、
- 一度読み間違えると、戻る時間がない
- 一問で悩みすぎると、最後の問題までたどり着けない
- 焦れば焦るほど、簡単な問題も落とし始める
だからこそ、
・1つの文章を10〜15秒でざっくり理解できる
・重要なキーワード(〜してはならない、〜以外は、必ず、など)をすぐに拾える
というレベルまで、読むスピードと理解の速さを上げておかないといけません。
3.なぜか不合格の人ほど「道路交通法を分かっていない自分」に気づいていない
最後のポイントは、ちょっと耳が痛い話です。
不合格の人ほど「自分は分かっている」と思い込んでいる
実際に指導していて、かなり高い確率でこういうケースを見ます。
- 「もう何年も運転してるから大丈夫」
- 「母国で免許持ってるし、問題ない」
- 「この前のテストも、たまたまミスっただけ」
ところが、蓋を開けてみると…
- 基本的な優先関係(歩行者 vs 車、直進車 vs 右折車など)を理解していない
- 「徐行」と「一時停止」の違いがあいまい
- 「駐停車してはいけない場所」を覚えていない
- 例外条件(「ただし〜場合を除く」)を完全にスルー
つまり、
“運転歴” に自信があるだけで、道路交通法そのものはよく分かっていない
という状態です。
なぜ自分の理解不足に気づけないのか?
理由はいくつかあります。
理由1:母国のルール=世界共通だと思っている
- 「自分の国でもこうだったから、日本も同じだろう」
- 「横断歩道でも、歩行者がいなければスピード落とさなくていい」
- 「みんなやってるから、このくらいはOK」
しかし、実際には、
- 国によって優先順位が違う
- 日本は歩行者優先が非常に強い
- 駐車・停車のルールも細かく決められている
にもかかわらず、
自分の感覚で“世界共通ルール”を作ってしまっているのです。
理由2:間違いを指摘される場面が少ない
- 普段の運転で警察に止められたことがない
- 周りの人から注意されない
- 事故を起こしていない
この3つが揃うと、
「これで問題ないはずだ」
と強く思いこんでしまいます。
でもこれは単に 「たまたま何も起きていないだけ」 かもしれません。
理由3:「なんとなく分かる」を「完全に理解している」と勘違い
問題を解いても、
- 「まあ、だいたい意味は分かる」
- 「ニュアンス的にはこうでしょ?」
という“なんとなく理解”で答えます。
しかし、学科試験は、
- not
- except(〜以外)
- ただし〜場合を除く
こういった細かい言葉の違いで正誤が決まる世界です。
「なんとなく」では点数が取れません。
【練習問題3】あなたは本当に道路交通法を理解している?
問題
救急車が後ろから接近してきたが、自分は制限速度を守って走行しているので、そのまま走り続けてもよい。
- 正しい
- 誤り
正解:2. 誤り
道路交通法では、緊急自動車(救急車・消防車・パトカーなど)が接近してきたときは、
- 一般道を通行中の場合は道路の左側によって進路を譲る、交差点付近の場合は交差点を避けて一時停止する
ことが求められます。
ここで大切なのは、
- 「自分は制限速度を守っているから」
ではなく - 「状況に応じて、緊急車両を最優先にしなければならない」
というルールの優先順位です。
「自分の実力」を正しく把握する3つのチェックポイント
チェック1:問題を解くスピード
- 1問あたり26秒ペースで、最後まで解ききれるか?
- 難しい問題で30〜40秒使っていないか?
チェック2:ルールの“理由”まで説明できるか
- 「なぜそれが正しいのか?」
- 「なぜそれが誤りなのか?」
を、自分の言葉で説明できますか?
チェック3:母国のルールと日本のルールの違いを意識しているか
- 「自分の国ではこうだったけど、日本では違うかもしれない」
- こういう視点を持てているかどうかで、理解の深さがまったく変わります。
まとめ:運転免許試験で落ちるのは「運転が下手だから」ではない
ここまでの内容をまとめると、
外国人が運転免許の学科試験に合格できない理由は、主にこの3つです。
- 「運転できる=ルールも知っている」という勘違い
- 感覚運転と道路交通法は別物
- 母国のルールと日本のルールの違いを理解していない
- 1問26秒という時間に見合う読解&判断スピードがない
- 10〜15秒で問題文を読めない
- 「ゆっくり読めば分かる」レベルでは本番に間に合わない
- 不合格の人ほど、自分の理解不足に気づいていない
- なんとなく分かったつもりで答えている
- 「運転歴」「自信」が邪魔をして、勉強が足りないことを認められない
試験に合格するために必要なのは、
「オレは運転できる」ではなく、
「日本の道路交通法を、時間内に正確に判断できる」力
です。
このページの【練習問題】を使って、
ぜひ一度、自分や従業員さんの「現実の実力」をチェックしてみてください。

